瘀血のセルフチェックと自分でできるお灸で、不妊症や月経の遅れを改善

東洋医学の常識 症状別   宮下宗三

瘀血とは

今回は、女性の症状と関係の深い瘀血のセルフチェック法と、自分でできるお灸治療にオススメのツボをご紹介します。

まず、瘀血(おけつ)についてですが、今回ご紹介する女性の症状と関連する腹部の瘀血の他に、打撲や骨折による瘀血や、手足に存在する瘀血など様々あります。難しそうな東洋医学用語ですが、簡単にいいますと鬱滞した血や、血流の悪い状態のことを指します。

『素問』という古代の鍼灸学書では「瘀血」ではなく、「悪血」と表現されていることもあり、「悪い血」という意味合いもあったと思われます。

現在では婦人科系の症状と結びつけられていることが多いですが、男女関係なく存在する東洋医学的な病態です。

瘀血は様々な症状と関係しているわけですが、そもそも女性の場合はどのように発生するのでしょうか?

※今回の婦人科の症状と瘀血に関する記事はすでに婦人科等で検査をし、器質的な異常のないケースを前提としております。

どうして瘀血が発生するか?

女性の症状と関連する腹部の瘀血は、月経の遅れなどの原因によって経血が順調に出きらない場合や、産後の悪露が残ってしまうことで、蓄積していくとも考えられています。

つまり、瘀血の発生は月経が遅れる稀発月経と関連が深いわけです。この稀発月経は東洋医学的には冷えと関係しており、中国宋代の医学書である『婦人大全良方』には血の性質として「寒を得れば則ち凝渋す」と記載されています。

冷えと瘀血の関係

冷えと瘀血の関係

よく、稀発月経そのものが瘀血が原因で発症するともされますが、稀発月経のおおもとの原因は冷えで、腹部に瘀血が蓄積されることで更に子宮の機能が低下し、症状が負のスパイラルにおちいると考えた方がよいでしょう。

瘀血のセルフチェック方法

『腹証奇覧』という江戸時代の医学書あります。この医学書は「腹診」というお腹を手で触って全身の状態を推測する、東洋医学独特の診断法についてまとめられたものです。その中に、腹部の瘀血を改善する「下瘀血湯」という漢方薬を処方すべき腹証として、おへその下に濃い色で診断点がマークされています。

腹証奇覧

腹証奇覧

鍼灸師として臨床をしていると生理痛・不妊症・稀発月経などの方の下腹は実際にかなり緊張している事が多く、その下腹部の緊張部に鍼やお灸をして、張りやしこりが緩和するにつれ、症状も改善していくのを経験します。

瘀血セルフチェック

下腹部を指の腹全体を使ってやさしく垂直に押し、しこり状の張りをさぐる

自分でできる瘀血チェックの方法ですが、まず仰向けに寝ます。次にご自分のお臍の下あたりに両手を置き、人差し指から薬指の指の腹全体を使って、力を入れすぎないようにゆっくりと垂直に押しこんでいきます。その際、硬さを感じたり、痛みや重だるさなどの不快感がある場合はそれを瘀血と仮定することができます。

市販のお灸を使った自分でできる瘀血治療

瘀血治療については、もちろん鍼灸師にやってもらうのがベストですが、ご自分でも行うことも可能です。方法としては、せんねん灸などの市販の家庭用のお灸を使います。お灸を置く場所ですが、基本はしこり状の腹部の緊張の上にツボを取って治療を行います。つまり、決まった位置のツボではなく、人それぞれ自分に合った場所にやるということです。

瘀血上のお灸

瘀血のツボ01

瘀血がおへその下にのみある場合は、その中心にお灸をします。

瘀血の範囲が広い場合の瘀血上のお灸

瘀血のツボ02

おへその下を中心に左右に広がっている場合は、左右二分割し、その中心に行います。

婦人科系の基本ツボ

さらに、婦人科系の基本となるツボとしては以下のふたつがありますので加えて行います。

三陰交

三陰交

太衝

太衝

胃腸の弱さも月経トラブルのもとになる

また、胃腸が弱く、過少月経や過短月経のある方は、足三里というツボもおすすめです。過少月経や過短月経は、東洋医学では胃の消化吸収する働きが弱く、血液そのものを造り出すことができないために起きると考えられています。

足三里

足三里

お腹へのお灸をしない方がよい場合

瘀血の原因のひとつとして、冷えによって稀発月経を引き起こし、腹部へ血が蓄積されていくと前述しました。逆に頻発月経や過長月経・過多月経は東洋医学的には熱が原因と考えられているため、腹部へのお灸は避けた方がよいでしょう。

足の方にある三陰交と大衝は、子宮の働きをよくするツボなので、どの状態の方でもやって大丈夫です。

鍼灸師は実際にどんな瘀血治療をするのか

瘀血治療には足のツボはもちろんのこと、腹部へのお灸や鍼を行いますが、私個人としては灸頭鍼という手法が最も効果的だと考えています。

灸頭鍼

灸頭鍼(きゅうとうしん)とは、鍼の上にお灸をつける手法。肌に直接お灸の火が乗らないため、心地よい暖かさが深部まで広がる。

また、骨盤内の臓器全般の循環をよくするツボは、臀部の周囲にもよくあり、こちらにもお灸をしたり、鍼をしたりします。お腹と腰と両方温めていくということです。

参考までに実際の治療例も以下にご紹介します。

黄体化未破裂卵胞(LUF)による不妊症の鍼灸治療例

黄体化未破裂卵胞(LUF)は、排卵障害の一種で、不妊症の原因となります。自然妊娠が難しいため、体外受精が基本的な治療になるわけですが、以前、30代半ばの方がLUFによる不妊症の治療で当院へいらっしゃったことがあります。

月経の状態は周期が35日前後ということで、稀発月経とまではいきませんが、通常よりも遅れるようで、さらに全身的に冷えやすいとのことでした。おへその下あたりを切診すると※、硬いしこり状の緊張がみられます。

つまり、月経の遅れ・冷え・下腹の緊張と3つの条件がそろっており、瘀血体質であることが推測できました。

治療の細かい内容は省きますが、脈診という東洋医学独特の診断では胃腸の働きも弱そうでしたので、直接的な不妊治療の鍼灸に加えて胃腸の調子を調えるツボも使いました。

不妊症のツボ

腹部だけでなく、臀部のツボも有効であることが多い。

瘀血が関連していると推測されたので、おへその下の大巨というツボと、臀部にある胞肓や裏環跳といったツボに灸頭鍼を行います。

また、骨盤内の循環をよくする次髎というツボも使用しました。

家ではご自分や家族の方にも手伝ってもらい毎日お灸をしていただくと、約2ヶ月経過したあたりに不正出血がみられました。

全ての人にあるわけではないですが、瘀血体質の方の治療を続けていると、瘀血の排出を行うために不正出血が起こることがあります。

瘀血も排出され始めたことですし、これで遅れがちな生理も少し改善されるかと期待していましたら、次の生理もやはり35日経過しても来ないとのことでした。

ただ、その時は基礎体温の上昇が続いているとのことでしたので、いつものようにただ遅れているのではなく、もしかしたら妊娠しているかもしれないと想定し、妊娠初期の方や体外受精後に着床を促す治療に切り替えていきました。

すると、いつまで立ってもやはり生理が来ず、ついには正式に妊娠7週目だということが確定します。

瘀血治療は基本的に順調な場合でも半年程度かかることが多く、1年間くらい様子をみていただくことの方が多いのですが、この方の場合は、約4ヶ月で自然妊娠に至りました。

※切診:東洋医学用語で触診のこと

※施術の結果には個人差がございます。施術例は鍼灸の効果を完全に保証するものではなく、参考として掲載していることをご理解いただきますようお願いいたします。

漢方も効果的、食材ではレンコンがおすすめ

瘀血治療には漢方も効果的です。漢方にも体質に合わせた色々な種類の瘀血対策のお薬があるので、自己判断で市販の漢方薬を飲み続けるよりは、詳しい先生に相談する方がよいでしょう。

レンコン

本草学的に瘀血解消によいとされるレンコン

また、漢方薬のおおもとの考え方になる本草学という学問がありますが、本草学的におすすめのお手軽な食材はレンコンです。レンコンと瘀血については以前記事にしましたので、そちらもご覧下さい。

まとめ

東洋医学用語である瘀血については最近認知度もあがってきたようで、不妊症と東洋医学の特集を組んでいる雑誌などでは当然のようにみかけますし、昔は「瘀血」の「瘀」という字がパソコンで入力できず、「お血」などとしていた記憶がありますが、今では例えばiPhoneで「おけつ」を変換するとちゃんと「瘀血」が候補に出てきたりもします。

今回は特に婦人科系の症状と関わる「瘀血」についてご紹介しました。病態が合っていれば今回ご紹介したツボにご自宅でお灸をするのもかなり効果的だと思いますので、体質的に瘀血が関係していそうな方はぜひお試しください。

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