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偏頭痛持ちの鍼灸師が自分を実験台にして症状を克服した記録

敗北感を味わいながら鎮痛薬を服用した日々

屈辱の日々

鍼灸師としては屈辱の鎮痛薬に頼る日々

頭痛はお仕事のパフォーマンスを下げるのはもちろんのこと、日常生活に大きな支障をきたす辛い症状のひとつです。

かくいう私も、以前は嘔吐を伴うほどのひどい頭痛持ちで、何の前触れもなくやってくる痛みには長いこと悩まされていました。いち鍼灸師としては鍼治療でなんとかしたいのですが、鎮痛薬には1年ほどお世話になっていた時期もあります。

発症時は毎回はじめから鎮痛薬を使うのではなく、頭痛になると、まずは必ず自分で鍼やお灸をやっていました。とにかく思いつく限りありとあらゆる場所へ鍼をするという感じです。治療効果はというと・・・、直後に軽快感はあるものの、ダメな時は何をしても効果が出ず、結局薬を使うという流れです。

この薬を飲むという行為は、臨床経験もそこそこある鍼灸師の僕にとっては、漠然とした敗北感を味わうものでした。

今は頭痛になることはもうほとんどなく、平和な暮らしをしているわけですが、ここに至るには結構な長い道のりがありました。今回は個人的な頭痛克服までの体験談ですが、他の頭痛持ちの方にも教えても効果がございましたので、僕の克服記を交えながら以下に解消法をご紹介したいと思います。

それは偏頭痛とは何かと考え、鍼治療の矛盾に気づくことから始まった

まず、自分の頭痛のタイプですが、典型的な偏頭痛です。毎回動脈の拍動を感じながら痛みに苦しみ続けるという感じで、痛みが出るのもほぼ休日です。

拡張した血管が神経を刺激することが偏頭痛の一因とされている。

拡張した血管が神経を刺激することが偏頭痛の一因とされている。

この偏頭痛は一般的に血管の拡張が原因とされています。拡張した血管が神経を刺激して痛みを生じるので、動脈のドキドキと動くリズムに合わせて痛むわけです。血管が広がれば血流も良くなるので、さらに血管はパンパンになっていき、もう寝込む意外に方法がないくらいになっていきます。

頭痛の時には毎回頭や頚へ沢山鍼をして、全然効果がなかったとはじめに書きましたが、ある時よくよく冷静に考え、鍼治療の矛盾に気づきます。そもそも、鍼には血管を拡張して血流を良くする作用があります。そして、頭痛自体は動脈が拡張してなるわけですから、鍼で余計に動脈を拡張させ、逆に悪化させてしまっているのではないかということです。

鍼の作用

一般的に考えられている鍼の作用

実際の僕の体感としては、鍼を首にすると、首周りが緩んで頭痛が少し楽になり、頭に鍼をすると、一瞬反射的に動脈が収縮するので痛みが直後に軽減していました。しかし、それと同時に、首の凝りによる圧迫感が取れて頭の方の血流が良くなり、最終的に血管が拡張するので、治療直後は痛みが軽減しても、時間の経過とともに逆に頭痛は強まってしまう感じです。

先に患部へ鍼をして、その後末梢を刺激するようにする

仮説。

鍼で余計に血管を拡張させてしまうのではという仮説に至る。

このように頭に鍼をすると血管を拡張させるので、偏頭痛には逆効果ではという仮説に至りましたが、それでもいち鍼灸師としては鍼にこだわりたい気持ちがあります。

何か他に良い方法はないかとアレコレ考えるわけですが、そんな時に僕は先人の経験を参考にすることにしています。具体的には鍼灸関係の古い文献をパラパラめくるわけなのですが、大昔に成書された『霊枢』という怪しげな名前の文献の「厥病」という篇に役に立ちそうな記載を見つけました。

この『霊枢』の厥病という篇に、頭痛についての治療法が記載されているのは、鍼灸師であれば常識中の常識です。僕も昔から知っていました。ただ、この時に僕が注目したのは、どのツボと経絡を使って治療するかということではなく、治療の順序です。以下が該当箇所の引用になります。専門用語ばかりでわかりづらいかもしれませんが、「先ず~、後に~」という形式で治療の順序が示されています。

  • …頭上の五行行五を寫し、先ず手少陰を取り、後に足少陰を取る。
  • …頭面左右動脉を取り、後に足太陰を取る。
  • …先ず天柱を取り、後に足太陽を取る。
  • (『霊枢』厥病)

※五行行五:頭部のツボ群。 / 天柱:首の後ろにあるツボの名前。 /手少陰・足少陰・足太陰・足太陽:経絡名。

このように、『霊枢』厥病では、最初に患部へ治療をして、その後に頭とは正反対の手や足の方へ鍼をして経絡を調えるという、治療する順序を指示しているわけです。

この記載を自分なりに次のように解釈してみました。頭や首へ鍼をすると頭の方の血流が良くなって、そちらに血液が集中し、血管が拡張すると仮定します。これをそのまま放っておくとやはり悪化するでしょう。

『霊枢』厥病で指示する治療順序の意味は、最後の仕上げに足の方へ鍼をして、頭の方へ集中した血液を末梢へ誘導しておくということです。これによって、頭部の血管に負担をかけず、頭や首の緊張も取れるのではないかと考えてみました。ちなみに、今までも足に鍼をしてましたが、足の後に頭という逆の順番でした。

足への治療

足へ治療をする意義

また、ここに出てくる頭痛は「厥頭痛(けつずつう)」という種類のもので、足の冷えをともなった頭痛という意味です。東洋医学には上実下虚(じょうじつかきょ)という考え方がありますが、それと同じことで、手足などの末梢に血がめぐりづらいため、行き場を失った血液が頭部に集中し過ぎてしまっている状態です。この場合は主に頭部の症状が出ますが、治療は末梢の循環を良くすることが主になります。

状態イメージ

厥頭痛や上実下虚の状態イメージ

書き忘れていましたが、僕は頭痛の時はたいてい足がすごく冷たくなります。それゆえ、この「厥頭痛」とも完全に一致します。

というわけで、頭痛にはなりたくないのですが、次に頭痛が来たら自分に試そうと、少し複雑な気分で頭痛が来るのを待ち続け、ついにその日が来ました。

期待に反してまた敗北

その日です。

今までは首や頭のかなり多くの場所に鍼をしていたのですが、刺激が過度になると余計に頭へ血がのぼってしまうので、この時は凝りや張りの極度に強い場所を厳選し、最小限にします。僕の場合は足の冷えを伴う「厥頭痛」なので、その後、足の方へ鍼をするわけです。

そして、治療直後の感想ですが、・・・正直な話あまり効いた気がしませんでした。

敗北

また頭痛に負ける・・・

「やっぱりダメか」と思いながら、足に鍼をした直後、再度悪あがきにまた頭にやたらめったら鍼をして、最終的に鎮痛薬を服用して敗北感を味わいました。鍼灸の古文献にある「厥頭痛」の治療なんて効きやしません。

頭痛が悪化して吐くのを覚悟して『霊枢』厥病の手順を守ってみる

そういうわけで、僕の頭痛は何をやってもダメだったわけです。ただ、前回は直後に効いた感じがなかったので、再度頭に鍼をたくさんしてしまいました。痛みに負けて足に鍼をして終わるという治療原則を無視していました。

頭痛がこのままずっと続くのも嫌なので、次はやはりあの文献の治療法をちゃんと実践してみようと思い、再度チャレンジ。そして、待ちに待った頭痛の日が来ます。

原則どおり始めに患部に最小限の鍼をして、その後に冷えている足にするわけですが、やはり直後に効いた感じがしません。ですが、前回の経験上これ以上何をしてもダメなのはわかっていたので、その時は痛みが悪化して吐くのを覚悟してそのまま様子を見てみました。

鎮痛の過程

この時は、60分ほど時間をかけてゆっくり鎮痛していきました。

すると、不思議なことに、一時間ほど経過するとなんとなく痛みが軽減し始め、鎮痛薬を服用せずともいつの間にか治まっていました。

今までにないことだったので、自分でも信じられず偶然そうなったのかもしれないと思いはしましたが、その後も同じような順序で治療をすると頭痛が時間をかけて消失していきました。

足にはツボが沢山あるので、色々と試す

ここまででわかったことは次の2つです。

  • 頭のツボへの刺激は直後効果がはっきりと出るが、時間が経つと逆に頭痛が強まることがある
  • 足へのツボの刺激は、直後効果がないけれども、早い場合は15分後くらいで、大体2時間くらいかけて段々と効いてくる

そういうわけで、次の段階としては、足のどのツボが自分にとってベストなのかという探りを入れてみることにします。

具体的には、いくつか効きそうなツボ候補をリストアップし、頭痛が来る度に使うツボを変化させてみました。すると、自分の場合は束骨と臨泣というツボがかなり劇的に効くようで、足の冷えもあるせいか鍼よりもお灸が合っているようでした。

この発見をしてからは、外出時に急に頭痛になった時以外は薬を飲まずにすむようになりました。一件落着です。

ジョギングをして自分の体が腐っていたことに気づく

そういうわけで、お灸で頭痛をコントロールできるようになりました。また、こんな対症療法的な治療でも、続けていくと頭痛自体の頻度がいつの間にか半減したのも嬉しい効果でした。ただ、完全な予防はできず、頭痛はちょくちょくやってきてしまいます。これではまだ頭痛薬がお灸に変わっただけで、克服とはいえません。

そこで、そもそも自分はいつから頭痛になったのかをじっくり考えてみると、鍼灸院を開業し、自転車での往診を全くしなくなった頃からです。

往診している頃は、患者様宅へ直接訪問するわけですから、毎日最低でも2時間は自転車をこいでいました。開業後は真逆な生活になります。

自宅から徒歩3分の治療院へ自転車で通勤し、鍼よりも重い物を持たず、狭い治療院の中をほぼ静かに座って過ごしていました。

これは多分極端な運動不足が原因なのだろうと思い、周りにジョギングにハマっている元気そうな40代の人々がたまたまいたことから、真似して軽めのジョギングを始めて見ました。

ジョギング

ジョギングで頭痛にとどめを刺す

すると、今までの苦労は何だったのだろうというくらい効果があり、2ヶ月継続した頃から頭痛そのものがもうほとんど来なくなりました。ジョギングといっても、その日の気分次第で2~3kmを20分前後かけてゆっくり走るという感じです。家族からは「早っ!もう帰ってきたの?」と言われるくらいの短いジョギングなのですが、効果はすごくありました。

「流水は腐らず」という言葉が『呂氏春秋』という中国の古典にありますが、まさにその通りで、人間の体も運動しないと淀んでいってしまうのですね。僕の体は腐っていたわけです。

今回は個人的な経験を記事にしましたが、当院へ頭痛を主訴にいらっしゃる方々にもこの治療方法を応用すると効果的でしたので、最後に参考までにご自宅でできるお灸のやり方をご紹介します。軽めの頭痛でしたらこれだけで対処できるかもしれません。頭痛でお困りの方は結構多いと思いますので、試してみて効果があるようでしたら是非シェアしてあげて下さい。

方法

適応

後頭部から側頭部の偏頭痛で、足の冷えがある方が適応です。なお、脳や循環器系の異常など重大な疾患が隠れているかもしれないので、検査済みの慢性偏頭痛を対象とします。

注意

糖尿病などで、末梢神経の障害があり、足の感覚が鈍い方はお控えください。知らない間に深い火傷して、壊疽から足を切断するということも考えられます。

お灸の種類

市販のせんねん灸などの台座型のものか、器用な方はプロが行う種類のものと同じ透熱灸がおすすめです。

せんねん灸タイプの場合

お灸は熱さを感じずに終わった場合、同じ場所にもう1回すえなおしてください。これを熱さを感じるようになるまで繰り返します。

透熱灸の場合

だいたい1箇所につき5個程度行って下さい。冷えの強い方は10個程度まで増やしてもよいです。

透熱灸のやり方は以下のリンク先の記事を参考にしてください。

透熱灸のやり方

お灸の間隔

鎮痛効果は20分から30分前後でではじめますが、完全に治まらない場合は、2時間程度間隔を空けて行っても大丈夫です。

おすすめのツボ

頭痛のツボ

人によって合うツボが違いますが、このふたつは比較的誰にでも効果の出やすいツボです。

束骨

足の小指側にある骨の出っ張りのかかと寄りの際。

臨泣

足の小指と薬指の付け根から伸びる骨と骨の間。

お灸の後に首や肩をもまない

刺激を与える順序が肝心なので、お灸の後は首や肩をもまないようにしましょう。もし首や肩のマッサージをしたい場合は、最初に軽めに行って、その後にお灸をするようにしてください。

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