顔面神経麻痺に鍼治療を用いる前に知っておきたいこと

現代医学的な顔面麻痺治療の問題点

 顔面神経麻痺は顔面の片側が麻痺をしてしまう病気です。脳の異常などと関わる中枢性のものと、末梢生のものに大きくわけられ、末梢生のものはベル麻痺や、耳の症状を伴う場合はハント症候群などと呼ばれます。末梢生の場合、通常はコルチコステロイドや抗ウィルス薬による治療が行われます。

 お薬での標準的な治療を行っても思うように回復しないケースもあり、そのまま自然治癒するものは7割程度といわれています。

 急性期の治療後は別の薬が処方され続けますが、これらは血流を改善するお薬であったり、ビタミン剤であることがほとんどです。また、病院では新しい治療法の提案のないまま、通院の間隔を徐々にあけられ、経過を観察するだけになってしまうというケースが多いようです。

 このように急性期を過ぎると、現代医学的には積極的な治療策がないので、他の治療法を探し、最終的に鍼治療を選択される方が多いと思います。

 その際、自分の今の状態は鍼治療での改善の余地があるのかどうかや、治療を始めた場合、どれくらいの頻度でどれくらいの期間かかるのかという疑問もわいてくるでしょう。

 そこで、顔面神経麻痺の鍼治療を専門的に行っている私の経験から、鍼灸治療を受ける前に皆さまが知りたいことをまとめてみましたので、治療を受ける際のご参考になればと思います。

あなたの顔面神経麻痺の状態は、鍼治療で改善の余地があるかをチェックしてみてください

鍼治療で改善の余地のあるもの

末梢性の顔面神経麻痺

ベル麻痺、ラムゼイハント症候群

発症してからの期間が以下にあてはまる

発症後2ヶ月以内のものは特に治りがよく、8ヶ月程度までならよく改善していく傾向にあります。ただし、発症直後は現代医学的な治療が最も効果が高いので、発症したらまず病院などを受診してください。なお、病院でのステロイド治療中も鍼灸治療を行うことは可能です。

短期間なら試す価値はあるが、基本的に改善が難しいもの

中枢性の顔面神経麻痺

腫瘍など脳の異常が原因で、手術が必要なもの

発症してからの期間が以下にあてはまる

発症後8ヶ月以上経過している方は、基本的には難しいことが多いですが、まれに改善するケースも存在しますので、1ヶ月半程度の短期間経過観察しながら試してみる価値はございます

手術後の後遺症・交通事故などの外傷

手術後の後遺症や交通事故による顔面神経麻痺は、良くなるケースもございますが、効果が全く出ないで中止するケースが多いです。

鍼治療の頻度と回数の目安、軽度のものであれば数回で済むことも

通院頻度のめやす

 鍼灸師によって違いが出る所ですが、当院の場合では、鍼治療の頻度は週に1回程度になります。発症して約2ヶ月以内であれば、最初の4~5回は、可能な場合は2~3日間隔の通院を勧めています。発症後それほど時間が経過していない場合は高頻度で行うと改善しやすいことがあるからです。

 軽度のものであれば、数回の治療内に大幅な改善がみられますが、基本的に治療は1クール2ヶ月間を目安に行い、その間の治癒の度合いをみながら継続するか終了するかを決定していきます。

顔面神経麻痺の鍼治療に使用する鍼は、中国式や韓国式の太いものから、痛みを最小限に抑えた日本式のものまで様々

 鍼の種類は様々で、例えば中国式の場合は一般的に太いものが多くなります。鍼の痛みなどがご不安な方は、鍼灸院を選ぶ前に問い合わせてみるとよいでしょう。また、どこの鍼灸院でも現在は基本的に全て使い捨ての鍼を用いておりますので、衛生面についてはそれほど気にする必要はないでしょう。

鍼

日本式の極細鍼。写真で確認しづらいほどの細さです。全て使い捨てのものなので衛生面でも安心。

 私の鍼灸院では顔面神経麻痺の治療には日本式の痛みを最小限に抑えられるもののみを使用しています。鍼の太さも猫の毛ほどの極細のものです。また、電気鍼(低周波通電鍼)は行いません。

顔だけでなく、全身の状態を改善することが肝心

 鍼灸治療を受ける場合は、顔への鍼治療だけでなく、全身的に治療をしてもらえるところがおすすめです。全身的に治療をする理由としては、多くの方が、発症前に仕事などが忙しくて疲労がたまっていたり、強いストレスがあったり、また、ご自分では気づいていない体全体の凝りや冷えが存在しているからです。

顔面神経麻痺のツボ

顔面神経麻痺の鍼治療に使用する顔面部のツボ

 顔は体の一部分ですので、その根となる全身の状態を改善することで、麻痺の回復を促進できると考えています。

顔面神経麻痺の鍼灸治療は古くから行われており、現在ではWHO(世界保健機関)のレビューにも掲載されている

 顔面神経麻痺の鍼治療は、WHO(2002年)の鍼灸の臨床試験報告レビューと分析によれば(※1)、「治療効果をみせることはあるが、さらなる臨床試験による証明が必要とされるもの」と分類されています。現在世界的に臨床試験が行われていますが、より質の高い試験の積み重ねが求められている段階です。

医学古典中に記載される顔面麻痺

古代の鍼灸学書である『黄帝内経』の中では「口僻、目不合(口がゆがみ、目を閉じたり開いたりできない)」という顔面神経麻痺と似た症状とその治療法が記載される。

 また、顔面神経麻痺は現代病ではなく、約2000年前の医学書にもたいへん近似した症状が治療法とともに記載されています。ステロイドの発明されていない時代では、鍼が主な治療手段であり、当院のではより効果的な治療のために、そういった時代の医学書を研究して現代に応用しています。

 古代の医学書には顔面神経麻痺への治療は顔面だけでなく、手足のツボへの刺激も行うことが記載されており、前述したように全体的な治療する方がよいと考えられます。

 例えば、『鍼灸資生経』という中国宋代の鍼灸学書には、様々な文献に記載されている顔面神経麻痺に対するツボがまとめられていますが、その中には「行間」「内庭」「二間」といった手足のツボが列挙されています。

顔面神経麻痺の部位や程度、全身の状態には個人差があるので、ひとりひとりに合わせた鍼灸治療を行うとよい

顔面神経麻痺の症状は様々

 鍼治療はステロイドなどの現代医学的な治療を行った後に残ってしまった麻痺に対して効果的です。

 顔面神経麻痺といっても、味覚障害のある方や、痛みや強ばりのある方、痺れなどの知覚の異常や違和感が頭の方にまで達している方、疲労やストレスによって増強する方など症状は様々です。

 こういった状態を考慮せず全ての顔面麻痺の方に一律で同じ場所に鍼を刺したままにして、一定時間寝かせておくだけのベルトコンベア式の治療を行う治療院もあるようですが、基本的に鍼灸師は初診時にじっくり話を聴き、ひとりひとりに合わせた治療を行うべきだと考えています。

オーダーメイド治療

 治療を受けるなら、断然レディメイド治療(既製品的な治療)ではなく、オーダーメイド治療がおすすめです。

 また、伝統的な鍼治療という観点からは、顔にだけ鍼をしたり、顔に鍼をしないで手足のみの治療をしたりではなく、両者同時に行われるのが理想です。

 以上が鍼治療を受ける前に知っておきたいことのまとめでした。鍼治療がいいのはわかっていても、鍼そのものに対する恐怖心でお迷いの方や、今ご自分が行っている治療に疑問をお持ちの方の参考になれば幸いです。

 また、短期で治癒したケースと、中長期かかったケースを症例として以下にあげております。

顔面神経麻痺の症例

成鍼堂治療院 鍼灸師 宮下宗三

参考文献

※1:『Acupuncture: Review and Analysis of Reports on Controlled Clinical Trial』(World Health Organization,2002年)

※2:『黄帝内経霊枢』(日本内経医学会、明刊無名氏本)

※3:王贄中『鍼灸資生経』(鍼灸医学典籍体系所収本)

診療日・受付時間

鍼灸治療料金

初回:7,560円(鍼灸治療+初診料)

2回目より:5,400円

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