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自律神経調整にはなぜ低刺激鍼灸がよいのか?

宮下宗三著者:宮下宗三

 更新日:2025.5.30

自律神経と鍼灸について、この記事を読むとわかること

自律神経の乱れは、さまざまな不調の原因となります。特に検査で異常の出ない不調には、自律神経が関係しているケースがよく見られます。

自律神経の乱れで出やすい症状

このような検査で異常の出ない症状に対しては、東洋医学が効果的なことがあり、実際に鍼灸を試したい方も多くいらっしゃるでしょう。

ただ、鍼灸に対しての情報はまだ少ないため、皆さま決断するまでにかなりお迷いになっいるのではないでしょうか。

当記事では、鍼灸をご検討中の方のために、できるだけ分かりやすく、科学的な作用機序や、低刺激鍼灸についてご紹介していきます。皆さまのご参考になれば幸いです。

それでは、鍼灸についてご説明する前に、まずは基本として知っておきたい自律神経の知識を、以下に簡単にまとめましたのでご覧ください。

自律神経は内臓の働きを自動制御する。心臓が意識的に止められたら?

内臓は自律的・自動的に働いています。もしこの内臓を意識的に動かせたらどうなるでしょうか?

うっかり心臓を動かすのを忘れた場合は、そのまま亡くなってしまいますし、胃を動かすのを忘れて食べ続けると、胃袋は破裂してしまいます。内臓を意識的に動かせると、大変なことになってしまいますね。

そのため、内臓の機能は自動で制御されています。

自律神経は、こういった内臓などの働きを自動制御する神経です。

自律神経はひとつではない

自律神経の構成

自律神経は内臓などにつながる神経ですが、自律神経というひとつの神経が、内臓を支配しているわけではありません。

自律神経は交感神経と副交感神経の2つの神経によって構成され、両者をまとめて自律神経と呼びます。

交感神経と副交感神経は緊急時と安静時でスイッチする

この交感神経と副交感神経は、よく車のアクセルとブレーキに例えられます。交感神経がアクセルで、副交感神経がブレーキです。

活動時や緊急時には交感神経が活発になり、安静時には副交感神経が活発になるというのは皆さんもご存知でしょう。

安静時と活動時の自律神経

例えば緊急時は、心臓を活発に動かしたりして、事態に速やかに反応できるように身体の各部位を調整させます。一方で、緊急時にとって優先順位の低い、消化活動などは一時的に抑制されます。

逆に、安静時には副交感神経が活発になり、消化活動などを促進します。

ひとつの内臓の働きが、この正反対の2つの神経に支配されるため、これを拮抗支配と呼びます。交感神経は緊急時に必要な反応を引き起こし、副交感神経の活動を抑制します。

つまり、2つの神経がそれぞれ、その時の状況に対応して、効率よく内臓などを自動制御しているわけです。

この状況に応じた、自律的なコントロールが正常に行われることによって、私たちの健康が保たれています。

自律神経失調症とは、この働きが乱れてしまった状態です。

自律神経はなぜ乱れるのか

ではなぜ自律神経は乱れてしまうのでしょうか?その原因を引き続き解説していきます。

自律神経はなぜ乱れ、乱れると何が起きるのか?

自律神経の乱れは、主にストレスによってもたらされます。ストレスというと、すぐに思いつくのが心理的・社会的ストレスですが、これだけではありません。

自律神経を乱すストレスの種類

寒さ、暑さ、痛みなどの物理的ストレス、嫌な臭いなどの化学的ストレス、感染などの生物的ストレスなどさまざまです。

こういったストレスは、自律神経の活動やストレスホルモン関係の深い、脳の視床下部に影響を与えます。

ストレスと交感神経・視床下部

また、ストレスは交感神経の活動を高めます。交感神経活動が高まると、アドレナリンが分泌され、血圧や血糖値が上昇します。

ストレスは視床下部や自律神経を通じ、全身の様々な症状を引き起こすというわけです。

実は鍼灸による刺激は、視床下部や自律神経を調整することが、次のように科学的に解明されています。

鍼灸は皮膚を通した自律神経の反射を起こす

鍼灸は皮膚に鍼やお灸をして身体を調える方法です。その作用機序としては現在、体性―自律神経反射が関係していることが分かっています。

体性ー自律神経反射

この体性―自律神経反射とは、皮膚等(体性)への刺激が、脊髄や脳幹に伝わり、そこから自律神経を通じて内臓に作用するという反射です。

では、ツボが配置されている皮膚には、解剖学的にみて何が存在しているのでしょうか?

皮膚の約2mmの層にある感覚受容器が自律神経とつながっている

皮膚の構造は大きく分けて、表皮、真皮、皮下組織の3つに分けられています。

特に体表から2mm程度の浅い層には、さまざまな感覚受容器というものが存在します。熱や、振動や、圧や、痛みなどを、皮膚を通じて感じ取るというのは、皆さんも日頃から経験していることでしょう。

皮膚の感覚受容器

皮膚に受けた刺激の感覚は、感覚受容器から脳に情報が伝わることで生じています。

当然ながら鍼灸の刺激も、この感覚受容器を通じて脳や脊髄に伝えられます。感覚受容器にはさまざまな種類がありますが、特に鍼灸と関係が深いものが、ポリモーダル受容器です。

このポリモーダル受容器は全身に分布しますが、皮膚や皮下組織にも存在しています。

感覚受容器と鍼灸刺激

体性―自律神経反射をもっと具体的にいうと、皮膚の浅い部分にあるポリモーダル受容器などを刺激すると、神経線維を通じて脊髄や脳幹にその刺激が伝わり、脳幹や脊髄から出ている自律神経の活動が調整されるという流れです。

皮膚の浅い層の鍼でポリモーダル受容器を刺激する

つまり、自律神経を調整するためには、この感覚受容器を意識した刺激をする必要があります。

では、この感覚受容器を意識した、自律神経を調える施術はどのようにすればよいのでしょうか。成鍼堂で採用している方法をご紹介します。

自律神経を調整するために必要な刺激

感覚受容器は、筋肉や腱などさまざまな場所にありますが、皮膚にも多く存在しています。

そのため成鍼堂では、鍼は深く刺すよりも、できるだけ浅い刺激をする方が、身体への負担という点から効率的であると考え、浅くソフトな鍼刺激を行っています。

具体的には、浅い鍼に向いている、撚鍼法という鍼の打ち方を採用しております。

一般的には鍼を管の中に入れて刺入する管鍼法が用いられますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか?

一般的に用いられる管鍼法は、短い管に入れた鍼の上部を叩いて、一気に5mm前後刺入する方法です。

管鍼法を用いると鍼が感覚受容器を一気に通過してしまう

鍼を深く刺したい場合に大変効率的な方法になりますが、自律神経の調整にとって重要な、皮膚の感覚受容器が存在する2mm以内の層を一気に通過してしまいます。

そのため、成鍼堂では体表から2ミリくらいまでの間の刺激を調節しやすい、撚鍼法を採用しております。

撚鍼法は浅い部分を効率よく刺激できる

成鍼堂で採用している撚鍼法は、皮膚の表面に鍼をおき、細かく撚りながら皮膚の浅い層を刺激する刺法です。

この撚鍼法を用いるもう一つの理由は、鍼による痛みを抑えることが可能だからです。深い鍼は神経に触れるような鈍痛を生じます。

痛みを伴う刺激は心理的なストレスとなり、交感神経を活性化させます。

痛みは交感神経を活性化してしまう

基本として自律神経の症状は交感神経を抑制することが必要なケースが多く、痛みを感じさせずに施術ができる、撚鍼法が向いていると考えています。

鍼を皮膚に置いたあと、手動で刺激を与え続けることで神経を活動させる

また成鍼堂では、鍼を刺したまま放置する施術は行いません。

効率よく自律神経を整えるために、鍼は手技操作をしながら単刺刺激をする方法を採用しています。

手技操作とは、鍼を刺した後に、細かい回転や振動刺激を与えることです。単刺とは、一定の刺激を与えた後にそのまま抜針する方法です。

成鍼堂で採用している単刺と手技操作

ではなぜ、手動で刺激を与え、刺したまま放置しないことが、効率のよい自律神経調整につながるのでしょうか?

ラットを用いた基礎研究によると、ラットの足三里というツボの付近に鍼を入れた後、細かくひねるなどの手技操作を加えると、その手技操作を加えている最中にのみ自律神経とも関わる神経線維が活性化すること分かっています。そして、手技操作を与えないと活動が静止します。

手技操作の基礎研究

つまり、刺したまま何もせず放置するよりも、鍼を刺した後に手技操作を加えた方が、より効率的に自律神経に影響を与えられるわけです。

現在では、こういった手技操作を機械的に行う代替手段として、電気鍼が用いられています。鍼に電気を流すことで、手技操作で与えられるような刺激を再現しているわけです。

この電気鍼は刺激の定量化もでき、施術者が手技操作をする手間を省けるため、臨床試験等でも広く用いられています。

ただし、患者さまの中には、電気を流される痛みを敬遠する方も多くいらっしゃいます。痛みに強い方や、電気を流される感覚がお好きな方には問題ありませんが、痛みに弱い方には手技操作による刺激が向いているでしょう。

銀鍼とステンレス鍼
左が細く軟らかい銀鍼、右は太く硬いステンレス鍼

また、成鍼堂では、手技操作時の痛みの発生を無くすために、基本として医療用の軟らかい銀製の鍼を用いています。通常は硬いステンレス製の鍼が用いられますが、銀と比較して刺激が強くなります。

自律神経失調症の鍼灸施術例

鍼灸施術例1
鍼灸施術例2
鍼灸施術例3

◎施術結果には個人差があり、効果を完全に保証するものではございません。

自律神経からみる全身調整の意義

自律神経が乱れると、内臓の働きが低下して、内臓の機能不全による多様な不調が出ます。

全身調整の意義1

例えば心臓の働きが悪くなれば、動悸やめまいがします。肺の働きが落ちれば、呼吸が浅くなり、身体のだるさや、集中力低下にもつながります。

自律神経の乱れが、そのまま心身の不調の原因となるというより、間接的に内臓へ影響を与え、不調を引き起こすわけです。

そのため、自律神経の乱れによる症状は、その症状のみに注目して鍼灸施術しても、うまくいきません。

例えば、めまいの場合、平衡感覚と関係する耳の周りに鍼やお灸をしただけでは足りません。

めまいの原因のひとつに、内耳のむくみがあげられます。東洋医学的に言うと、耳に水分が停滞した水滞の状態です。この水滞は、内臓の働きの低下によって、水分代謝が落ちている状態とも考えられます。

全身調整の意義2

こういったケースでは、耳へのみ部分的に鍼やお灸をせず、水分代謝と関係する腎臓の働きをよくする施術も加える必要があるというわけです。

他の症状でも同様で、具合の悪い部分だけでなく、全体のつながりをみて施術をすることが重要です。

自律神経調整には、苦痛や緊張のない施術が必須

成鍼堂では、自律神経を整えるために、銀製の微鍼を用いた、痛みのない浅くやさしい刺激の施術を行っています。

鍼には色々な流派があって、それぞれ効果があるとは思いますが、科学的な知見からみても、大量の太い鍼を深く刺し、患者様に痛い思いをさせる施術をする必要はどこにあるのでしょうか?

まとめ

また、鍼を刺したまま放置するのは、精神的な緊張を誘発する上に、神経刺激という観点からも大きな優位性はないと考えます。

自律神経を整えるためには、2−3ヶ月ほどの通院が必要な場合もございますので、苦痛のない施術は、通院の負担を大きく減らすことにもなります。

自律神経の乱れのある方で、特に痛みのストレスに弱い方や、緊張をしやすい方は、成鍼堂の微鍼術による施術をお考えになるとよいでしょう。

自律神経失調症の症状別の解説はこちらから

参考文献

  • 鈴木郁子. やさしい自律神経生理学. 中外医学社. 2015.
  • Fusako Kagitani, Sae Uchida, Harumi Hotta, Yoshihiro Aikawa. Manual Acupuncture Needle Stimulation of the Rat Hindlimb Activates Groups I, II, III and IV Single Afferent Nerve Fibers in the Dorsal Spinal Roots. The Japanese Journal of Physiology. 2005.
  • A.Sato, Y.Sato, R.F.Schmidt. 体性―自律神経反射の生理学. シュプリンガー・ジャパン. 2007.
  • 川喜田健司, 矢野忠. 鍼灸臨床最新科学. 医歯薬出版株式会社. 2014.