更年期障害の鍼灸治療

宮下宗三
by宮下宗三

体への負担がない鍼灸が積極的に利用されるべき

更年期障害には鍼灸治療がもっと利用されるべきだと、私は常々感じています。なぜなら、鍼灸はお薬のような副作用がなく、体への負担を心配する必要がないからです。

できれば安全な治療をしたいとお思いの方は、その選択肢として鍼灸をぜひお考え下さい。

世界からみた鍼灸の評価

 WHO(世界保健機構)が1996年に出した見解では、「女性不妊」「月経異常」「分娩の誘発」「月経困難症」を適応症としていますように、鍼灸は女性特有の症状に効果があることはいうまでもありません。

 また、臨床試験も世界的に行われています。科学的根拠(エビデンス)に基づく医療情報源として、最高水準のものとされている、コクラン・レビューでは、合計114名に行われた3件のホルモン療法と鍼療法の比較試験が分析されました。

 レビューによれば、ホットフラッシュの1日あたりの頻度が、鍼治療を行うことで減少することが確認されています。ただし、鍼治療とホルモン療法との比較では、やはりお薬を使った方が効果が高いようです。

 鍼治療は効果的にはホルモン療法より劣りますが、ホルモン療法を使わない場合の選択肢としては、十分考慮に入れてよいというわけです。

 つまり、第一選択肢としてまず鍼灸を行って、効果が出なければホルモン療法を行うという順番が、体への負担を考えると、合理的なのではないでしょうか。

東洋医学における更年期障害とは

 歴史的にみても、更年期という概念は古くから存在しています。例えば、古代の鍼灸医学書である『素問』(そもん)には、女性の場合は7の倍数の歳で、身体が変化していくと記載されています。

 『素問』では、女性の場合、35歳から老化が進行し始め、42歳前後と49歳前後が、それぞれ節目の歳として挙げられています。

更年期と東洋医学

更年期や更年期障害という概念は東洋医学の古代医学書にもみられ、最近発見された病気ではありません。

 現代医学的には、ホルモンバランスの崩れによって、更年期障害は引き起こされると考えられています。一方、東洋医学ではどうかというと、女性ホルモンに近いものとして、腎気(じんき)や天癸(てんき)といった概念があります。この腎気や天癸が35歳以降衰えていくわけです。

 当院の行っている更年期障害への鍼灸治療では、全身治療によって、自律神経を調え、ホルモンバランスを調節し、加齢によって引き起こされる症状を緩和していきます。

鍼灸は更年期障害による複数の症状を同時に治療が可能

更年期の症状は周囲の理解を得づらいこと多い

 更年期障害の症状には大変個人差がありますが、複数の全身症状が同時に現れるのが特徴です。そのため、ひとつひとつの症状ばかりに目を向けるのではなく、全体のバランスを調える治療が必要になります。

 例えば、ホットフラッシュという症状があります。体が急に火照り、頭がのぼせたり、発汗したり、頭重感、めまい、肩の凝りなどを伴います。

 東洋医学的にみると、この状態は、上実下虚タイプであると考えられます。

 上実下虚とは、末梢の循環が悪いために手足が冷え、本来手足の先にまでめぐるはずの血が、身体上部に留まって、よどんでいるような状態です。これによって、のぼせや火照りを感じるようになります。

 ご自分の手で足を触ってみて、冷たく感じる場合は、上実下虚タイプになります。この場合、症状の出ている体の上部へ鍼やお灸をする前に、根本的な原因である末梢の循環を改善するため、手や足の方へ鍼やお灸を行っていきます。

上実下虚のイメージ

足などの下部の循環が悪いため、上部がよどんでいるイメージ。根本的な解結のために、足の血行をよくする治療を行い、これによって上部の滞りが下部へ誘導され、循環のバランスが取り戻される。

 末梢の循環が改善されれば、身体上部によどんだ血液が、手や足へスムーズに流れていき、上部の血管の負担が軽くなり、これによって複数の症状が同時に軽快していきます。

 また、逆に手足が熱く感じるタイプのものなど、更年期障害でも原因は様々ございますので、当院では全身の状態を詳しくお伺いして、それぞれの方に合った治療法を選択していきます。

鍼灸治療の頻度と期間について

通院の負担を抑えるために、ご自宅で手軽に出来る治療法をお教えします。

 更年期障害に大きな個人差があるように、治療期間や回数にも当然個人差があります。そのため、期間の目安についても一律に申し上げづらいのが現状です。

 しかしながら、お問い合わせの時によくある質問ですので、あえて参考までに治療期間を申し上げますと、大多数の方が2ヶ月程度の治療で改善していきます。

 治療の頻度は週1回のペースで受療されるのが望ましく、休みのとりづらい方の場合は最低月2回程度来院されています。

 当院で行っている更年期障害の鍼灸治療では、以上のように月2~4回程度の治療ですので、毎日のように治療院へ通わなくてはいけないのではないか、という心配をする必要はありません。

 ただし、治療頻度を減らしながら、効果を発揮させるために、治療計画の中に必ず取り入れていただいていることがあります。それは、自宅でのお灸治療です。

自宅でのお灸治療を併用する

 更年期の方は年齢的に現役世代ですので、仕事や家事を平常通り続けながら治療をできるようにしなければなりません。通院での治療の大きな補助として、お灸をしていただくわけです。これによって、通院の頻度が減らせます。

 お灸は家庭で手軽にできるセルフケアです。更年期障害が改善された後もお灸のファンになり、月に1回程度の頻度で体調管理のために鍼灸治療を受け、そのたびに自分に合ったお灸の場所をご相談される方もいらっしゃいます。

追記

 院長の宮下です。私が更年期障害の治療を始めたきっかけは、自分の母の治療をした経験からでした。鍼灸師になるまでは、自分の母の体の事は全く理解していないという状態でしたので、家族の健康に目を向ける良い機会になりました。

 その後母はすっかり鍼灸治療のファンになり、現在でも体調管理や将来病気になるリスクを解消するために、定期的に私の治療を受けています。東洋医学は何よりも副作用のリスクがないので、自分の家族にも積極的に使えます。

成鍼堂の更年期障害治療が掲載

院長の宮下が執筆した更年期障害の治療に関する論文

 また、私の更年期障害に対する鍼灸治療への取り組みについては、鍼灸業界で最も歴史が古く、読者数の多い『医道の日本』という雑誌に論文として掲載されています。

 参考までに症例もご紹介しますので、どうぞご覧下さい。

更年期障害の症例

成鍼堂治療院 院長 宮下宗三

参考文献

Acupuncture for menopausal hot flushes, Chocrane Database of Systematic Reviews, 2013, issue7

・宮下宗三「医学古典を参考にした更年期障害の鍼灸治療」(『医道の日本』第827号,「特集 更年期障害と鍼灸治療」,2012年)

・『重廣補注黄帝内経素問』(台湾・天宇出版社,顧従徳本影印)

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著者:宮下宗三

鍼灸師。成鍼堂治療院院長、新日本医師協会鍼灸部会学術部長、日本伝統鍼灸学会評議員。著書に『江戸の快眠法』(晶文社)、『鍼灸師・マッサージ師になるには』(ぺりかん社)がある。

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