
更年期障害を発症した場合、特にホットフラッシュや発汗に関しては、ホルモン補充療法が効果的であるとされています。
ただ、更年期障害は致命的な症状が出ないため、症状が軽い方の場合は、ホルモン補充療法を選択するか、それ以外の鍼灸などにするか、ご本人が決めるというケースが多くみられます。
特に鍼灸に関しては、効果に対して疑問をお持ちの方も多いでしょう。
ホットフラッシュに対する鍼灸のエビデンス
現在、鍼灸の臨床試験は世界的に行われるようになり、科学的根拠(エビデンス)に基づく医療情報源として、最高水準のものとされている、コクラン・レビューにも掲載されています。エビデンスの質的にはまだ高くはなく、今後が期待される所ですが、以下のような分析がされています。
コクラン・レビューでは、合計1155名に行われた16件の、ホットフラッシュに対するホルモン補充療法と鍼療法の比較試験が分析されました。

分析によれば、鍼治療よりホルモン補充療法の方が効果が高く、鍼治療は無治療と比較すると有益であるという結果が示されています。
効果は薬剤の治療に劣りますが、鍼灸の良さは副作用の心配がないことです。症状がそれほど重くなく、少し様子をみる余裕のある方は、ホルモン補充療法の前に鍼を試すことも考えてみましょう。
更年期障害に対する鍼灸の科学的な効果
女性ホルモンのエストロゲンの減少によるホットフラッシュの発生機序ついてはいくつかの説があり、特に鍼と関係の深い物としてはCGRP説があります。
CGRPは血管拡張と関係する物質です。このCGRPの血中濃度は、血中のエストロゲン濃度に依存します。つまり、女性ホルモンの減少によって、CGRPの濃度も低下します。
血中のCGRP濃度が低下すると、身体は血管拡張機能を維持するため、CGRPの受容体を増やします。言い換えると、血中のCGRPの低下を補うために、CGRPへの感受性を高めます。
その結果として、CGRP誘発性皮膚温上昇が起こり、ホットフラッシュといった症状が出現します。

少し複雑なので簡略化すると、女性ホルモンが減少するとCGRPの濃度も低下し、それによって皮膚温が上昇するということです。
鍼の基礎研究では、鍼が血中のCGRPの濃度を高め、それによってCGRPの感受性が調整され、ホットフラッシュが抑えられるのではないかと考えられています。
また、鍼は視床下部の体温調節中枢に働きかけ、身体のほてりなどを抑えるとも考えられています。
成鍼堂の更年期障害に対する施術方針
更年期障害と自律神経失調症は非常に似たところもあり、自律神経の乱れによっても更年期に出やすい症状が出ることがあります。
そのため、成鍼堂では婦人科系の調整をしつつ、自律神経やメンタル面の症状も考慮に入れた施術を行うようにしています。
例えば、成鍼堂では微鍼術という、鍼の痛みや刺激を大幅に抑えた施術法を用いています。これは、強い痛みを伴う刺激によって、交感神経を活性化させないためです。簡単にご紹介すると、以下のような施術をしております。
- 浅い鍼刺激
- 痛くない鍼刺激
- 細く軟い医療用の銀鍼を使用
- 大量の鍼を刺したまま放置しない
- 電気鍼をしない
交感神経は汗腺をコントロールし、心拍数の増加などとも関係しておりますので、特に更年期症状に対しては、刺激の質はできるだけソフトであることが求められます。
微鍼術に関しては、以下のリンク先にも詳しくご説明しております。あわせてお読みください。
施術の期間や頻度について

更年期障害の施術期間や頻度は以下のようになります。施術の頻度は1週間に1回。期間は数回の施術で済む方から、数ヵ月かかる方がいらっしゃり、かなり個人差があります。平均的に1か月半から3か月ほどかかることが多いです。
お仕事の都合などで週に1回の頻度で通えない場合は、ご自宅でのセルフ灸の指導もしておりますので、お気軽にご相談ください。
更年期障害に対する鍼灸施術例
成鍼堂では更年期障害への鍼灸施術を多数行っておりますが、いくつか施術例もご紹介します。症状が改善するまでの過程などご参考にしてください。



※施術の結果には個人差がございます。施術例は効果を完全に保証するものではなく、参考として掲載していることをご理解いただきますようお願いいたします。
まずは安全な方法から試すのが合理的
鍼灸は薬剤による治療に比べると効果は劣りますが、副作用のないところが大きなメリットになります。総合的な健康を考えると、まずは安全な方法から試してみるのが合理的なので、ご自分の今の状態を見て、どの方法を選択するか考えてみましょう。

鍼灸を選ぶ場合は、できるだけ刺激のソフトな、全身調整も行う鍼灸院をお探しになるとよいと思います。
参考
- Sylvie DodinClaudine, BlanchetIsabelle, et al. Acupuncture for menopausal hot flushes, Cochrane Database of Systematic reviews. 2013.
- 矢野忠, 川喜田健司. 鍼灸臨床最新科学. 医歯薬出版株式会社. 2014.